『楽』

『たのしい』と『らく』は別のもの。
『らくに』と『らくして』も別のもの。



辞書によれば
『たのしい』は満足で豊かなこと。
『らく』は好きで安らかなこと。

『たのしい』には力が満ち溢れている。
『らく』には脱力感がある。
動と静、あるいは生と死のような対をなしている。

『楽しい』という言葉はやたら好感度が高く
『楽しく』を信条にしている人もいるようだが
実はその中には
①『たのしく』
②『らくに』
③『らくして』
と3タイプが混在しているように思う。

①は満足し豊かな状態を作り出すこと。
一朝一夕に完成するプロジェクトではないので
当然、苦も難も伴う。
多くの場合、自分の働きかけたことが
他人や社会を通して返ってくる。

②は①ほど表立った働きかけはせず
肩の力を抜いて穏やかに生きるという選択。
心安らかな状態を保つための工夫をし
周囲に気を配ってなるべく波風を立てず
問題があれば早めに解決するよう努める。

③は面倒や困難は誰かに任せて
自分は好きなことだけをしていくこと。
奉仕は最小限に留め
要領よくおいしいところだけ手に入れたいと望む。

①と②は対極のように見えて
実は意外と近いところにある。
どちらも将来を見据えた選択の上にあり
自分以外の誰かとつながっているせいだろう。
実際、①②の両立ができる人はいる。

③だけが離れている。
その場しのぎで明日も見えないし
自分の快楽以外に関心がない。
また貢献することを放棄ししているため
意志や責任感が育たないばかりか
物質的にも精神的にも安定せず
浮き沈みが激しい。
ストレスが多い。
身近な“ワラ”をつかんでは溺れやすく
厭世的になったり自暴自棄になったりする。

とにかく③ではまずいのだ。

『楽』という漢字を覚えたときに
じゅうぶん咀嚼しないで飲み込んでしまうと
のちのち混同しやすいのかもしれない。
しかし、たとえ単なる勘違いが原因だとしても
その違いを知らないまま放っておくのは危険だと思う。

「たのしい、たのしい」と呪文のように唱えながら
いつの間にか『らく』ばかりを選び
さらに好きなことだけを抜き取り『らくして』いると
勤労意欲やモラルが低下し
不満と不安がつきまとう。
「楽しければいい」という言葉が犯罪の温床にさえなり得る。
そうして社会も個人も“楽”から遠ざかっていく。

…と考えていたら
「“楽しく”ということが自らの行動を制限する」
という話を聞いた。
自分の予想する範囲の“楽しさ”の中に閉じこもって
世界を広げようとしなくなるから、だそうだ。

ふむ。
では“らく”でも“たのしく”もないことをやっているのにも
多少は意味があると思っていいのかな。


【参考】
山田ズーニー. (2010). 『おとなの小論文教室: Lesson 481 「働きたくない」というあなたへ 5.』
Retrieved on April 15, 2010, from http://www.1101.com/essay/2010-03-03.html
山田ズーニー. (2010). 『おとなの小論文教室: Lesson 486 「働きたくない」というあなたへ 10.』
Retrieved on April 15, 2010, from http://www.1101.com/essay/2010-04-07.html

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by emi_blog | 2010-04-17 22:46 | ことば | Comments(0)  

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