ウサギ

『兎と亀』の
ウサギのその後。



“継続は力なり”や“油断大敵”という教えだったと思う。
有名なお話。
ただ、どういう経緯でウサギとカメが競争することになったのか、
結果が出た後どうなったのかなどは知らない。
というわけで以下は完全なる創作である。

ウサギはカメと競争して
負けるはずがなかった。
ウサギ本人も周囲もウサギの圧勝を信じていた。
ところが先にゴールテープを切ったのはカメだった。
ではカメはウサギより早く走ったのか?

ウサギは言う。
「確かに私は途中で眠ってしまったために
ゴールはできなかった。
でもだからといって
私がカメより遅いということにはならない」。

「眠りさえしなければ私は勝っていた。
そのことに誰か異議がありますか?」
誰も何も言わない。
ウサギは続ける。
「私はカメに負けたわけではないのだ」。
気まずい沈黙が流れる。

リーダー格のクマがやさしい声で言う。
「そうだね、ウサギさんは走ったら早いさ。
みんなもそれはわかってるよね?」
みんなは顔を上げて
「そうだよ、ウサギさんがカメになんて負けるわけないよ」
と口々に言いだした。
「期待してるよ」と肩をたたく者もいる。

そうしてみんなは
「しかしカメがゴールするとはねぇ」「驚いたよねぇ」
などと言いながら帰っていく。
ウサギはみんなに励まされてうれしかったが
どこか釈然としない思いが残った。
クマはそんなウサギの様子をじっと見ていた。

ウサギはそれからしばらく
村の集会に顔を出さなくなった。
クマはウサギのためにどうしたらいいか考えていた。
そんなある日
ウサギが隣村のイヌと競争したという噂が
クマの耳に入った。
ウサギがイヌに競争を持ちかけて始まったらしい。
競争前にウサギは堂々と勝利宣言をしていたが
当日は道に迷ってゴールできなかった。
「前日に下見さえしておけば私は勝てた。
棄権は敗北ではない」とウサギは訴えているという。
クマはため息をついた。

それからひと月も経たないまたある日のこと。
クマは偶然出会ったタヌキに
山ひとつ向こうの村で
ウサギがカタツムリと競争したという話を聞いた。
前評判は断然ウサギの勝ち。
しかし競争が始まった途端、ウサギは足がつって
その場から動けなくなった。
「足がつってしまったんだから仕方がないでしょう?
カタツムリに負けたわけじゃない」と
ウサギは必死で言っていたそうだ。

「『私は早いんだ。信じてくれ』とすがりつかれて
参っちゃったよ」とタヌキが言う。
「早いんだろうとは思うけど、走れなくちゃ…ねぇ」。
クマはこの話を他でしないよう、タヌキに口止めした。

クマは久しぶりにウサギの家を訪ねた。
「やぁやぁクマさん。ようこそ。
実は今度ダチョウと競争することになりましてね。
ちょっと手ごわい相手かもしれませんが
私はなんだか勝てそうな気がするんですよ」。
目をキラキラ輝かせて語るウサギをクマは制した。
「ウサギさん、もう競争はやめないか」。

ウサギは表情を変えクマをキッと睨みつけた。
「私が負けるとでも言うんですか?
私は負けやしませんよ。今度こそ必ず勝つのです」。
ウサギの目には涙がたまっている。
「私は本当に早いんだ。
ダチョウにだってチーターにだって勝てる。
みんなをあっと言わせることができるんだ」。

クマは首を横に振る。
「キミはゴールできないよ」。

ウサギは顔を赤らめて立ち上がり
クマを玄関へ押し出した。
「帰ってくれ。もう二度と来ないでくれ」。
ドアの向こうでウサギは声を殺して泣いていた。
クマはとても悲しかった。
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by emi_blog | 2010-09-20 14:01 | その他  

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