都市伝説

「アメリカ人は肩が凝らない」や
「バカは風邪をひかない」のこと。



「英語には『肩こり』という語がない」という都市伝説を
耳にしたことがある人は多いのではないだろうか。

で、
「いやいや、そんなことはない」という反論が出てきて
「英語にはちゃんとStiffという表現がある」
「『肩』をShoulderと訳すとそういう誤解につながる」
などなど
「辞書を引けばわかるさ」的アドバイスが後に続き
「そっか、英語にも『肩こり』はあるんだ」
という結論に達してめでたく収束する。

私はこの現象を
日本の英語教育の問題点を示す典型的な例として
英語のセンセイ方に注目してもらいたいと思う。

ある語や表現を別の言語に換えられるかどうかと
言語によってものの見え方が変わることは
はっきりと分けて教えられなければならない。

金田一(2010, pp. 22-24)が指摘しているとおり
アメリカ人だって肩は凝る。
肩をもんでコリを刺激してやりながら
「これが『肩こり』というものだよ」と教えれば
その瞬間からアメリカ人は肩こりを自覚し始める。
サリバン先生がヘレンに『水』という語を教えた
あのやり方だ。

現にアメリカ人の友人Tは
日本に暮らしはじめてからというもの10年以上
ずっと肩こりに悩まされている。
肩をもまれれば「ああ、そこそこ」と言うこともできる。
一方、私の父は純日本人だがマッサージが嫌いで
「自分の肩は凝っていない」と思い込んでいるから
『肩こり』がどういうものか知らない。

「日本人はアメリカ人よりよく風邪をひく」
というのを信じる人はいるだろうか。
「アメリカには風邪をひかない日本人が多く住んでいる」
というのはどうだろう。

私は風邪をひかない。
日本ではずっと
「みんなはよく風邪をひくなぁ」と思っていた。
ところがアメリカに住み始めてから
私と同じように風邪をひかない日本人によく会うようになった。
しかもアメリカでひいた風邪はすぐ治る。

風邪の治し方に日米文化の違いが現れることは以前にも書いたが
風邪をひいて得があるような社会においては
風邪っぴきは増え、風邪は長引く傾向にあると思う。
逆に病人が損しかしない社会では
人は風邪をひきにくいし、ひいても短期間で回復する。

「バカは風邪をひかない」という。
熱や咳や鼻水が出ても「これは風邪だ」と本人が思わない限り
その人は風邪をひいていないのだ。
先進国に『ストレス』や『うつ』が増え続けるのも
これと同一線上に理由がある。
「病は気から」とはよく言ったものだ。

言葉にはそれだけの支配力がある。
しかしその支配力に圧倒されて言葉から先へ進めないようでは
言語教育は成功しない。
外国語をやろうと思ったら
「言葉を作ったのも使っているのも人間なのだ」という
至極当然のことをしっかり踏まえないと
表面的な差異に翻弄されて外国語を学ぶ意味を見失う。
異文化の言語をやるということは
その文化という文脈内での考え方、感じ方を覗き見て、
ある現象をどう解釈するか、その方法の多様性を知ることである。
言語教育とは、言語を変えると見え方が変わるということを
体験する機会を与える場である。
現象そのものがあるとかないとかを検証する場ではない。

何語でもナニジンでも
あまり違いがないように私には見える。
「こんなに違うんだよ。ビックリした?」というやり方も
なくはないのだろうけど、
私が英語教育を通じて伝えたいことは差異ではない。


参考文献
金田一秀穂(2010). 15歳の寺子屋:15歳の日本語上達法. 講談社.

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by emi_blog | 2010-11-25 05:27 | 英語  

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