i+1

英語学習者たちに会い、彼らのナマ英語を見聞きしながら
Krashenの言う "i+1" のことを改めて考えている。



Stephan Krashen (1941- )は
第二言語習得(SLA)の世界ではよく知られた人物。
1980年頃から業界に大きな影響を与え続けている。
第二言語習得が学問の一分野として確立したのが
1960年代後半とされているから
その50年ほどの歴史のほとんどに顔を出していると言える。

彼は特に初期に発表した5つの仮説で有名なのだけど、
どれもこれもビシッと実証できず、結論は極端で、
常に多くの学者にきっぱりと批判されている。
多数の反例も挙げられている。

しかしKrashenの仮説は、どれもこれも
少なくとも素人の耳にはそれっぽく聞こえる。
ない話だと頭ではわかっていても、なぜか気になる。
ものすごく乱暴に形容するなら
Krashenの仮説は、根拠はなくとも“モテる”のだ。
掘り下げればアラが見つかるし、周りは「やめとけ」と言うけど
ついつい心を捕まれちゃうのだ。

かくいう私もKrashen信者ではないのだが
彼の仮説をなんとなくずっと頭の片隅に置いている。
仮説そのものもだけど、
実証不可能な仮説が科学の世界に長年居場所を持っているという
その事実にも魅力を感じる。
素人の感覚的な支持を得ているというところにも、何かありそうな気がする。
直感って侮れないから。

たとえば冒頭に書いた"i+1"とは、
彼のインプット仮説(1985)の核となる考え方。
学習者にとって効果的なのは、現在の能力レベルより
ちょっとだけ上(+1)の刺激である、というもの。
現在のレベルと同等(+0)や、高すぎるレベル(+2)の刺激じゃなくてね。

もちろん科学的には“現在の能力レベル”というものが特定できないので
「"i+1"は証明のしようがない」「本質的な意味がない」と批判される。
それはそうなんだろうけど、それでもやっぱり私たちは
「確かに"+1"ぐらいの刺激を受けるのが学習にはちょうどよさそうだ」と
なんとなく思う。

ちょっと重いかな、ぐらいの負荷がちょうどいいトレーニングになる。
それは筋肉を鍛えるときでも、心の成長を促すときでも、
英語でも、ほかのどんな学習でも、同じこと。
私たちが"i+1"を直感的にアリだと感じるのは
そういう経験や心当たりがあるからこそだろう。

英語学習者に自分の現在の能力レベルを測る方法を提供し
"+1"にあたるちょうどいい課題を与える。
私はそれを実現しようと、道を探っているような気がするのだ。



【参考文献】
Krashen, S.D. (1981). Second Language Acquisition and Second Language Learning. Oxford: Pergamon Press.
Krashen, S.D. (1985). The Input Hypothesis: Issues and Implications. New York: Longman.

[PR]

by emi_blog | 2012-06-28 18:17 | 研究 | Comments(0)  

名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

<< 綱渡り タッチパネル >>