文系離れ

答えのないこと、わからないことに対して
じっくり取り組む力の欠如について。



オバマ大統領の教育政策のひとつに
STEM分野の強化・推進というのがある。
STEMとはScience, Technology, Engineering, Mathematics
の頭文字をとったもの。
アメリカの学問カテゴリー内の話なので、
必ずしも日本のとは一致しないが、
まぁいわゆる“理系”の各分野と思っておけばよい。

先日のニューヨークタイムズ紙にこんな記事があった。
Humanities Committee Sounds an Alarm
American Academy of Arts & Sciences(アメリカ芸術科学アカデミー)の
Commission on the Humanities and Social Sciences
(人文社会科学系委員会)が連邦議会に報告書(参照)を
提出したというニュース。
「STEMをやっておくと就職に有利」という風潮、
もっと言えば「STEMじゃなければ職がない」という恐れから
Humanitiesや Social sciencesを勉強するのは
"luxury"(贅沢、嗜好品)と考えられ、
それらを専攻する学生が減っていることが伝えられている。
これは学問や研究、教育上由々しき事態であるばかりか
人間形成、ひいては国のために重大な問題だという論調。

これを受けて、ある大学の先生がこんなブログ記事を投稿した。
Why Study Humanities? What I Tell Engineering Freshmen
工学部の1年生に
哲学、歴史などのHumanities を学ぶ意義を教えている、という話。

えーと。
私はもう“理系・文系”について考えるのはやめたので
(下記【関連記事】参照)、別の切り口で。
最後に引いたブログ記事の
“理系”的な"facts, answers, knowledge, truth" と
“文系”的な"uncertainty, doubt, skepticism" について。

コンピュータなどの発達により、単なる知識を多く持っていることには
もう意味がない、と言われて久しい。
"Wikipedia Brown" (参照)のネタから早5年。
かつてのクイズ王がコンピュータと対戦して負けたりしている。
彼はその上で「知識を身につける意味」を説いているが(参照
つまり、今の時代、「ただ知っている」だけでは
役に立たないのだということ。

これは「ただ知っている」でメシを食っていた人たちはもちろん、
日常レベルで「知ったかぶり」をしていた人たちにとって
黄金期の終焉、受難の時代が始まったということ。
「知ったかぶり」をしたところで、スマホでちょちょっと検索して
「それ違うよ」と画面を突きつけられたら終わりだもんね。
「知ったかぶり」はすでに絶滅の危機に瀕していることだろう。

同時に、現代は「わかったつもり」の大繁殖期でもある。
検索して、見つけて、さらっと読んで、おしまい。
ちょっとかじっただけで経験談を語ったり、
聞きかじりの情報を堂々と披露したり、
タチが悪ければ浅いものを深そうに見せかけたりして
注目を集めようとする。

それ自体は時代の流れというか、流行みたいなものでもあるので
ある程度は仕方ないとして
最近の若者を見ていて危険だなと思うのは
わからないことに対して辛抱できないところ。

なにしろ手元で瞬時に答えを見つけることに慣れているので
「考えてもわからない」という事態にめっぽう弱い。
答えを持っている人がいるなら聞き出そうとするし
そうでなければ「お手上げ」とばかりに放り出す。
情報を深く読み込んで、考え、自分なりの見解を紡ぐという
地道な作業が苦手なのである。
パッと答えが出ないと苛立つ。

生死や幸福など、人間に関わることは
長い時間をかけて、ようやく「こういうことかも」と
おぼろげな“答えのようなもの”が見えてくる。
そんな気の遠くなるほど壮大なテーマでえさえ、
気の短い彼らはちょちょっと検索して
「わかった!わかった!」とはしゃぐか
「無理」「意味がない」と捨ててしまうかのどちらか。

Humanitiesや Social sciencesには
uncertainty, doubt, skepticism が付きまとう。
わかったと思ったそばから新たな疑問が沸いてくる。
STEM他の“理系”も、本当に突き詰めれば同じように
謎が謎を呼ぶ世界なんだけど
そこへたどりつく人はごくわずか。
ほとんどの人にとっては“答えの出る分野”なのである。

就職ももちろん大きな要因ではあるけど
若者たちの「早く簡単にわかりたい」という性急さが
“文系”離れに拍車をかけているような気がする。


【関連記事】
理系・文系(2012-03-21)
理系・文系 (完) (2013/3/1)
続・理系・文系 (完) (2013/3/2)
虚学 (2013/1/17)
Wikipedia Brown (2010/3/27)
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by emi_blog | 2013-07-07 08:15 | 教育 | Comments(0)  

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