SCARF

SCARF モデルと
日本の英語教育について。



SCARF とは、人が他の人との関わりを通じて
社会的に経験する5つの要素の頭文字。
この5つがどういう状態かによって
人の学習や成長が促進されたり、妨げられたりすると考えられる。

状態は、まぁざっくり言ってしまえば
「前向き」か「後ろ向き」か。
脳科学的には「reward (報酬)」と「threat (脅威)」、
行動でいうなら「approaching/toward (進んでやりたくなる)」と
「avoiding/away (避けたい、やめておきたい)」。
「イケる」と「ヤバい」でもいいと思う。

「前向き」に属するのは、
感覚としては、うれしい、楽しい、果敢、建設的、自信を持つ、
強さ、安心、快適など。
モノ的には、お金、食べ物、水、性的満足、住まいなどを得ること。
社会的には、褒められる、モテる、昇進する、信頼される、
任される、勝つ、絆を持つ、公平に扱われる、など。
「後ろ向き」はその反対。

ポイントは、人は「前向き」より「後ろ向き」の方に
強く反応する、ということ。
これは生きていくうえで当然のこと。
いち早く危険を察知するために、危ない目にあったことをしっかり記憶し、
次に同じような場面に出くわしたときには
素早く対応できるように備えているのだ。

だから「アイロンは熱い」を覚えて火傷しないようになる。
変な臭いのものは食べないようになる。
同じ理由で、怖がりはより怖がりになり、
苦手はなかなか克服できない。

コーチ/リーダー/教育者はこの
「前向き」ははかなく、「後ろ向き」は根強いという事実を踏まえ、
対象者をいかに「前向き」に保つか、その方法を考える。

SCARF を分解すると以下のとおり。
Status (地位、立場、ステータス)
他の人との関係において、自分の立ち位置がどこらへんか、ということ。
勝負に勝ったり、お金を儲けたり、モテたり、褒められたりすると
「前向き」になり、
負けたり、失敗したり、叱られたり、けなされたり、バカにされたりすると
「後ろ向き」になる。

Certainty (確実性)
脳は過去に覚えたパターンを好むので、
知っていること、経験済みのこと、わかりやすいこと、
先の展開が読めることに対して人は安心し、「前向き」になる。
逆に、知らないこと、経験がないこと、わからないこと、
この先に何が待っているか読めないことに対しては不安になり、
「後ろ向き」になる。

Autonomy (自主、自律)
厳しい規則、他の人からの細かな指示、命令、
背いた場合の罰則、脅し、それらに屈するしかない環境など
自分の意思で行動する自由を奪われると「後ろ向き」になる。
選択の余地があり、決断を任され、
実行する自由や断る権利を与えられると「前向き」になる。

Relatedness (他の人とのつながり、絆)
自分の居場所があり、仲間に認めてもらうと「前向き」。
居場所がなく、仲間はずれにされると「後ろ向き」。

Fairness (公正、公平)
みんなでシェアしたり、平等に分配したりして
自分が公平に扱われていると納得できると「前向き」。
「あいつだけズルイ」「なんで自分ばっかり」というのは
「後ろ向き」。

ここまでは脳の話。
ここからようやく英語教育の話。
ここまで読んだ人なら、もう想像はついているだろう。
下ごしらえが9割だったね。

学習はSCARFの各要素を「前向き」にすれば促進され、
「後ろ向き」にすれば妨げられる。
「前向き」な学習者は心が開いているから、吸収力が高い。
「後ろ向き」な学習者は心を閉ざし、目を閉じ、耳をふさいでいる。

このモデルを手に、日本の英語教育を検証してみよう。

Status (地位、立場、ステータス)
「英語ができないとバスに乗り遅れますよ」
「英語もできないの?」
「中学高校で6年もやったのに」
「その発音じゃ笑われますよ」

Certainty (確実性)
「英語は小さいうちが勝負らしいよ」
「文法をやるからダメらしいよ」
「文法をやめたのがまずかったらしいよ」
「英語って本当に必要なの?」

Autonomy (自主、自律)
「TOEICでX点とらないと許しません」
「英語以外の言語は禁止」

Relatedness (他の人とのつながり、絆)
「私はできないけど、あなたは頑張りなさい」
「他の国はみんな英語をしゃべってますよ」
「みんな英語を習ってますよ」

Fairness (公正、公平)
「日本語も英語もしょせん言語なんだから」
「旧イギリス植民地並みに英語力をつけなさい」
「英語なんてできて当たり前」

…てな感じで、さんざん学習者を「後ろ向き」にしておいて
「いいからやれ」と言われてもねぇ。

そして、「前向き」にさせるキーワードが「お金」。
たとえばSは「英語ができると稼げる」と信じることで、
Cは「絶対できるようになる」と謳う教材を買うことで、
Rは入会金や月謝を払って仲間に入ることで
「後ろ向き」を「前向き」にひっくり返すことができる。
徹底的に「後ろ向き」にさせておき、
「前向き」になるにはお金がかかって当たり前、
お金をかけないと「前向き」になれないかのように見せる。
そりゃ英会話屋さんが儲かるはずだよね。

英会話屋さんが巧いのは、いちおう勧誘の時点では、
相手を学習者として扱い、
英語ができるようになるための道を示しているところ。
このやる気の引き出し方はSCARF的に見ても適切なのだ。

ただし問題はそのあと。
学習の場が「商売の場」に変わり
学習者が「お客」や「金づる」に変わったとき、
そこにあるのは人を煽り、不安にさせ、焦らせる話術と
思考停止と、殺し文句。
このやり方は商売的には手っ取り早く、手間が少なく、効率も良いが、
どう考えても教育的ではない。
SCARF的に見れば、すべて「後ろ向き」だ。

まぁ英会話屋さんは実際に商売だからいいとしても、
最近の“教育改革”によって
この傾向は公教育にも強く現れてきているように
私には見える。

そろそろ気づけー。

参考文献
Rock, D. (2007). Quiet leadership: Six steps to transforming performance at work.
New York: HarperCollins.
Rock, D. (2008). SCARF: a brain-based model for collaborating with and influencing others.
The NeuroLeadership Journal
, 1, 44-52.



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by emi_blog | 2013-11-12 05:29 | 教育  

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