サイダー

「サイダー=炭酸」。
カタカナ語の根強さに、感心。



Apple Cider といえば、アメリカでは冬の定番ドリンク。
特に"Hot" と断らなくてもホットであることが多く、
「あまったるー+あったまるー」な飲み物。
この季節、野外のイベントや市場などでは
ほぼもれなくApple Cider が振舞われている。

"cider"の定義は地域によってやや異なるが
アメリカでは"apple juice"、つまり「りんごジュース」とほぼ同義。
完熟りんごをつぶして搾って作る。
ヨーロッパではこれを発酵させ、アルコール分を含むものを
"cider"と呼ぶ場合が多く、つまり「りんご酒」を指す。
アメリカでは「りんご酒」の方は"hard cider" と言って
ノンアルコールの"cider" と区別している。
日本語ではフランス語から借りた「シードル」を
「りんご酒」の意味で使っている。

…というようなことは、ちょいと検索して
ウィキペディア(参照)なりWikipedia (参照)なり
その他のサイト(参照)なりで拾い読みをすればすぐわかる。

"cider" と"soda" は別物。
「サイダー=炭酸飲料」というのは日本発祥の発想で
韓国あたりまでは通じるようだが、英語圏までは伝わっていない。
'-der' の発音をいくら練習しても、通じない。
おそらくはヨーロッパにあった"sparkling cider" という
発泡りんご酒を飲んだ日本人が
その「シュワシュワ」の意味を担う語は
"sparkling" ではなく"cider" だと判断したのだろう。
二択だったのにねー。惜しかった。
後ろの方が聞き取りやすかったんだろうね。

「三ツ矢サイダー」はもともと「シャンペンサイダー」だったのが
大人の事情で「シャンペン」を落とし、
残った「サイダー」が「シュワシュワ」の意味を受け継いだ。
「サイダー」に当初ついていた"cider"味は
いつの間にかなくなっていたが、
それはあまり問題にならなかったようだ。
もし「三ツ矢サイダー」が、たとえば
「ノンアルコールシャンペン」からスタートしていたら
「ノンアルコール=炭酸」になって
「三ツ矢ノンアルコール」という名前になっていたかもしれないが、
その可能性は低い。
「サイダー」の意味のわからなさ、
言われてみるとなんとなく爽やかな気がしないでもない音の感じが
「シュワシュワ」と絶妙に絡みついたのだろうと思う。
運命のいたずらだね。

…というようなことも、ウィキペディア(参照)やウィキペディア(参照)や
語源辞典(参照)を読めば想像がつく。

しかし、カタカナ語に疑いを持たない人たちは
これらの情報を取りには行かない。
「外国ではりんごジュースを温めて飲むらしい」
「衝撃」
「要するにアップルティーじゃないの?」
「スタバにあったよ。アップルサイダーって名前だった」
「サイダーなのにホットなの?」
「ホットジンジャーエールみたいなこと?」
とか言い合っているうちに
徐々に話題の焦点は
「炭酸水のあったかいの」へと移っていく。

ま、確かに
三ツ矢サイダーは早くから"CIDER"という英字ロゴを使っており、
これが英語じゃないなんて言われちゃ、
もう何を信じていいのやらって感じよね。
でも私には日本の25-30歳ぐらいの人たちの間で
「サイダー」という語がまだ使われていることが意外だった。
現代日本語ではすっかり「炭酸」になったかと思ってたよ。

そして最終的には
「微炭酸のりんご酒でしょ。
昔イギリスのパブで冬限定のホット飲んだよ」
という体験談が決め手となる。
すでに話題の核が「炭酸」+「ホット」になっているところへ
有力なナマ情報が飛び込んできて、
「炭酸」+「ホット」の認識はいよいよ確実なものになる。
「りんご酒」の部分はほぼキャッチされない。

後でわかったのだが、タイミングの悪いことに
彼らの身近には「ホット炭酸飲料」の存在がある。
新しいけれど、コンビニで日常的に目撃する程度には定着している。
だから「ホット+炭酸」に違和感を覚えず
「あぁ、あれね」とすんなり理解できてしまう。
ホットの炭酸飲料を作ることは非常に難しく、
今シーズン市販されたものが世界初の快挙らしいが(参照1 参照2
それは彼らの耳に入っていないのだろう。
「日本の最先端技術によってようやく開発された商品だとすると
昔イギリスで飲んだあれは本当に炭酸だったか?」
などと疑ってみることはない。
ひょっとしたら情報提供者本人には
「本場で熱々のシュワシュワを飲んだ」という
はっきりした(虚偽)記憶があるかもしれない。
それがとうとう日本へ上陸した、と。
その方がストーリーとしてわかりやすいもんね。

こうして明治以来のカタカナ語、
「サイダー=炭酸」はより強く認識されていく。
「ホット・アップル・サイダー」=「温かい・りんごの・炭酸」。
りんご味である必要はないので
「ホット・サイダー」=「温かい・炭酸」。
「サイダー・ハウス・ルール」は
「炭酸・工場の・規則」かな。

「サイダー」と「シードル」はカタカナ語だと
意味も見た目も似ていない。
「シードル」は発泡性のものが多いので
共通点があるとしたら「どちらも炭酸」ということになるだろう。

ちなみに三ツ矢サイダーには“果実感”を加えた姉妹品がある。
かつては「フルーツソーダ」だった商品名は「フルーツサイダー」となり、
現在はレモンやオレンジと並んで
「三ツ矢フルーツサイダー アップル」という商品がある(参照)。
この名称には「サイダー」と「りんご」が無関係であることが
ダメ押し的にさらっと織り込まれているわけだが、
ここまで来ると、もうサブリミナル効果みたいだよね。
お見事。

偶然が重なるとはこういうことかしらね。
恐るべし。


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by emi_blog | 2013-12-10 11:00 | ことば  

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