『日本語教のすすめ』

『日本語教のすすめ』を読んだ。



日本語を「世界でひろく理解される国際語にしたい」(p.240)
という著者の思いが詰まった本。

ふむ。
日本カブレが著しかった頃の私がこれを読んでいたら
もっと響いただろうな。

なるほど、と思ったのは以下2点。
一つは日本人の外国語習得に対する態度。
著者によると、日本人が外国語を習得する目的は
「日本にはない外国の優れた技術、
進んだ知識を取り入れる」ことであり、
言語を学ぶ意味は「専らそこから自分たちの役に立つ情報や
知的情操的な刺激や喜びを引き出すため」。
だから「相手不在の一方的な外国語学習」が可能だという (p.221)。

だとすると、「何のために英語を学ぶのか」という問い自体が
無意味だということになるね。
英語圏に行く予定もない、外国人と出会う機会もない、
でもなんとなく英会話学校に通い続けている人に
「使わないなら学ぶ必要ないんじゃない?」
「もう止めたら?」と言っても、聞く耳を持たないわけだ。
単語ひとつ分でも“優れた”“進んだ”言語に自分が近づいたと感じ、
そのことで“喜び”を得ることができたら
英語を学ぶ意味も何も、そんなものがあろうとなかろうと、
関係がない、と。
遠回りや内容の薄い時間やお金や労力の無駄づかいも、
“情操的刺激”が得られる限り、無駄ではない、と。

もう一つは、大人が子ども向けに、簡単だと思って教える漢字が
実は子どもにとって難解である場合がある、という話 (pp.34-5)。
大人は漢字の画数や見た目で難易を決め付けやすいが、
子どもにとって本当に難しいのは抽象度の高い概念を表す漢字。
だから子どもにとっては『鳥』より『鶴』の方が覚えやすい、と。

そういえば私は幼稚園ぐらいのとき漢字カードにハマっていた。
理由は『檸檬』や『蜘蛛』を読んでみせると
祖父母が喜んでくれたからだと思うが、
本人としては「漢字を読んでいる」というつもりはなく、
ただ字のかたちを見ればカードの裏の絵を思い出す、
というだけのことだった。
私が絵の名前を言うと、
大人は「こんな難しい字が読めた」と驚く、というシステム。

しかしこれは字と絵が1対1でがっちりリンクする
具体性の高いものだからできること。
子どもに英語を教える場合も、同様に
表に絵、裏に単語(スペル)というカードをよく使うが、
食べ物や動物のカードはどの子もすぐに覚えるのに、
動作(動詞)や様子(形容詞)はなかなか入っていかないものだ。

その延長線上で、気づいたこと、2つ。
1つは「第二言語習得は第一言語が確立してからの方が効率的」
と私が考える理由の一つに、この抽象/具体の問題があるのだということ。
特に抽象の概念を、ある程度母語で経験してから第二言語を導入すると
第二言語で抽象度の高い言語操作がしやすくなる。

もう1つは、英語学習において日本人学習者がよくやる、
いわゆる“出る単”式の早見表や
単語カードの表裏に日本語と対になる英語を書いて
めくりながらどんどん覚える暗記術は
やっぱりやめた方がいいな、ということ。
あの訓練によって、学習者は知らず知らずのうちに
一つでも多くの語を高速で覚えることを目指す癖がついてしまい、
日本語・英語とも具体性の高い単語ばかりに偏って覚え、
時間と思考的な手間のかかる抽象的な概念に対して
深く、じっくり取り組むことを面倒くさい、非効率と感じるようになる。
感覚的にざーっと流し読みして読書を済ませたり、
辞書の見出しだけで意味がわかったと早合点するのも
このあたりと関係しているような気がする。

別に英語ができてもできなくてもいいけど、
せっかくやるなら雑にやるのはもったいない。
英語を含むさまざまな学習を通じて、しっかり考える学習者になっておくと、
後々いろいろと便利で、長い目で見ると結局オトク。
そういうことを伝えていけたらいいなと思う。


鈴木孝夫. (2009). 日本語教のすすめ. 新潮社.
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by emi_blog | 2015-01-11 00:52 | 読書感想文  

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