距離感

人間関係とコミュニケーションの
ややこしい関係について。



たとえば電話がかかってきて
Caller ID(発信者番号通知)や
携帯が個人所有だとかいう事情によってではなく
声でお互いが誰かわかるとする。
例①
A: 「もしもし」
B: 「おー」
かけた方も受けた方も
“親しい仲”を確認することができる。

対照的に
例②
A: 「もしもし」
B: 「…どなた?」
となると、少なくともBは
Aとの関係を近いと想定していないことになる。

これは通常、親しくなれば
コミュニケーションにおいて省略できることが増えるためで
“省略できない=まだ親しくない”というわけだ。
だから深くて長い“はず”の付き合いを経て
AがBとの関係を近いと思っているにもかかわらず
②のようなやりとりがあると
A: 「誰の声かわからないの?」
A: 「まだ名乗らないといけない?」
A: 「いいかげんわかってくれよ」
となる。

わかる“はず”の関係であるのをお互い認識した上で
あえて遠さを演出して別のメッセージを送る場合がある。
“ケンカを売る”や“ふざける”はこの条件で成り立つ。
例③
A: 「もしもし」
B: 「…どなた?」
A: 「なんだよその言い方」

Kさんによると夫婦ゲンカ中の場合
これを仲直りのきっかけとして利用することもできる。
例④
A: 「もしもし」
B: 「…どなた?」
A: 「夫としてお世話になっておりますXXと申します」
B: (笑)
…ま、無事(笑)となるかどうかは人によるかな。

いずれの場合でも“はず”という前提がある。
相手の理解力に期待するわけだ。
通常、ある同一文化内の成人は
“はず”を共有できている“はず”なので
①や③のような言外の意図も伝わるし
期待と異なる②のような対応にズレを感じる。
④は期待を読み取った上であえて外す、という上級テクで
さらにBの(笑)などは

適切な行為(“はず”)をBが認識していることを前提とし

Bがそれを避けたことには特別な意図があるとAが認識し(ここまで③も同じ)

Bが設けたこの場における“はずⅡ”をAが理解した上で

Aが“はずⅡ”と異なる不適切な行為を選ぶ
…というAが取ったステップをすべて
Bも同じように認識している場合のみ成立する。

話し手の考える関係(距離感)が
コミュニケーションの仕方(どう話すか)を決め
受け手の考える関係がそれをどう受けるかを決め
その反応を受けてお互いに距離を調整する。
こんなややこしいことが毎日あちこちで
当たり前に繰り広げられているのだ。
すごい。

この手の分析は
私の社会性のなさをグイグイ刺激しておもしろい。

余談だが番号通知の出現によって
“名乗るか名乗らないか&確認するかしないか”の判断が
より複雑になったと思う。
声による認識ができない“はず”の関係でも
発信者が誰なのかわかってしまうので
親しさの指標として働かない。
“名乗らない(尋ねない)”ことと
“その必要のない関係”は直接関係がなくなった。
また“名乗る(尋ねる)”という行為に
たとえば「通知してるのになぜわざわざ?」
「アドレスに入れていないとでも?」など
新たな“はず”が付加された。
境界線が曖昧になり解釈に幅ができると
前提を相手と一致させるのはかなり難しい。



参考文献
Drew, P. & Clinton, K. (2000). Calling just to keep in touch: regular and habitualised telephone calls as
an environment for small talk. In J. Coupland (ed.), Small Talk (pp. 137-162). Harlow, UK: Pearson
Education.

Pomerantz, A. & Mandelbaum, J. (2005). Conversation analytic approaches to the relevance and
uses of relationship categories in interaction. In K. L. Fitch & R. E. Sanders (eds.), Handbook of language
and social interaction
(pp. 149-71). Mahwah. NJ: Lawrence Erlbaum.

Schegloff, E. A. (1995). Discourse as an interactional achievement III: The omnirelevance of action.
Research on Language and Social Interaction, 28(3), 185-211.

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by emi_blog | 2008-09-25 20:12 | 研究  

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